病院・クリニック、中小企業が知っておくべきM&Aの基礎知識
病院・クリニック、中小企業が知っておくべきM&Aの基礎知識
昨今、多くの病院・クリニック、中小企業が、後継者不在という大きな問題を抱えています。
その解決方法としてM&Aが注目されており、M&Aは、事業を存続させたい病院・クリニック、中小企業にとって、選択肢の大きな一つとなっています。
だからといって、何の準備もないままM&Aを行ってもうまくいきません。M&Aを成功させるためには、事前準備がとても重要なのです。
さらに言うと、M&A自体が一体どんなことなのかがわからないとM&Aは成功しません。
そこで今回は、病院・クリニック、中小企業がM&Aを検討する際に知っておいていただきたいM&Aの基礎知識を解説していきます。
●M&Aとは何か?
●M&Aにはどのような種類があるのか?
●M&Aのプロセスはどのようになっているのか?
など、基本的な知識を身につけていただくことで、M&Aに対する理解を深め、よりスムーズにM&Aを進めていただくことができます。
目次
M&Aとは?
ところで、よく聞く「M&A」とは、一体どういう意味なのでしょうか?
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併・買収」と訳されます。 企業の合併と買収を包括的に指す言葉で、広い意味では、企業の合弁や提携、事業の譲渡なども含まれます。
M&Aは、企業が成長戦略を遂行したり、事業承継問題を解決したりするための有効な手段として近年注目されています。
病院・クリニックにおけるM&A
病院・クリニックにおいては、地域住民の高齢化による患者数の増加や医療費の増大、医師不足、経営環境の悪化など、様々な課題に直面しています。
M&Aは、これらの課題を解決し、病院・クリニックの経営を安定化させるための有効な手段として活用されています。
例えば、後継者不在に悩むクリニックが、M&Aによって大手医療法人に事業を承継することで、地域医療への貢献を継続しながら、経営基盤を強化することができます。
中小企業におけるM&A
中小企業においても、後継者不在、人材不足、競争の激化など、多くの課題を抱えています。M&Aは、これらの課題を解決し、中小企業の成長を促進するための有効な手段として活用されています。
例えば、後継者不在に悩む中小企業が、M&Aによって事業承継することで廃業を回避し、従業員の雇用を守ることができます。
いろいろな会社形態におけるM&A
M&Aというと、株式会社をイメージするかもしれませんが、医療法人、個人経営クリニック、有限会社、など、M&Aは様々な会社形態で行われています。
ただし、それぞれの会社形態によってM&Aの方法や手続きが異なります。
ここでは、医療法人、個人経営クリニック、株式会社、有限会社のM&Aの方法についてご紹介いたします。
医療法人のM&A
医療法人は、医療の提供を目的とした非営利法人です。株式を発行していないため、株式譲渡はできません。
医療法人のM&Aでは、大きく分けて「出資持分あり」と「出資持分なし」のケースがあります。「出資持分あり」と「出資持分なし」の違いについては下記をご覧ください。
持分あり医療法人と持分なし医療法人の違い
項目 | 持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 |
持分(財産権)の有無 | あり | なし |
設立時期 | 2007年3月31日以前 | 2007年4月1日以降 |
解散時の残余財産の帰属 | 出資者 | 国庫または他の医療法人 |
メリット | 出資者への配当が可能 解散時に残余財産が分配される |
設立が容易 公益性が高い |
デメリット | 設立手続きが複雑 持分の譲渡に制限がある |
出資者への配当ができない 解散時に残余財産が国庫に帰属する |
移行 | 持分なし医療法人へ移行可能 | – |
「出資持分あり」と「出資持分なし」では、M&Aの方法が異なります。
持分あり医療法人のM&A
持分あり医療法人(2007年3月31日以前の設立)のM&Aでは、主に以下の方法が用いられます。
●事業譲渡
医療法人が持つ病院やクリニックの事業を、他の医療法人などに譲渡する方法です。
●合併
複数の医療法人が合併し、一つの医療法人になる方法です。
●持分の譲渡
出資者が保有する持分を、他の個人(新オーナー)や医療法人に譲渡する方法です。
ただし、持分の譲渡だけでは医療法人の経営権は移転しません。医療法人の経営権を移転するためには、持分の譲渡に加えて、社員総会における議決権の過半数を取得する必要があります。
持分なし医療法人のM&A
持分なし医療法人(2007年4月1日以降の設立)のM&Aでは、主に以下の方法が用いられます。
●事業譲渡
医療法人が持つ病院やクリニックの事業を、他の医療法人に譲渡する方法です。
●合併
複数の医療法人が合併し、一つの医療法人になる方法です。
医療法人のM&Aは、公益性の高い事業であるため、医療法や関連法規に基づいた手続きが必要となります。
個人経営クリニックのM&A
個人経営のクリニックは、個人事業主として運営されていますので法人格がありません。そのため、株式譲渡や合併といった手法は使えません。
従って、個人経営のクリニックのM&Aでは、事業譲渡が唯一の選択肢となります。
クリニックの事業に関わる、
●診療科目、患者情報
●医療機器、備品
などの、医院運営に必要な資産のみを譲渡します。
このとき、譲渡側の現院長が廃業届を出した後に、譲渡される側の新院長が開業届を提出し、引き継ぐようになります。
従業員との雇用契約、建物などの賃貸借契約、その他の契約、債権債務などは引き継ぐことはできません。
個人経営クリニックのM&Aでは、事業譲渡によって、
●後継者不在の解消
●事業の継続
などが実現でき、また、従業員の雇用維持も期待できます。
株式会社のM&A
株式会社のM&Aでは、株式譲渡、事業譲渡、合併といった方法が主に用いられます。
●株式譲渡
株式を譲渡することで、会社全体の所有権を移転する方法です。
●事業譲渡
特定の事業のみを譲渡する方法です。
●合併
2つ以上の会社が1つの会社に統合する方法です。
株式会社のM&Aは、他の会社形態に比べて比較的自由度が高く、様々な手法を選択することができます。
有限会社のM&A
有限会社のM&Aでは、株式譲渡、事業譲渡といった方法が用いられます。合併はできません。
●株式譲渡
株式を譲渡することで、会社全体の所有権を移転する方法です。ただし、有限会社の場合、定款で株式の譲渡を制限しているケースが多いため注意が必要です。
●事業譲渡
特定の事業のみを譲渡する方法です。
有限会社のM&Aでは、株式譲渡に制限がある場合があるため、事業譲渡を選択するケースが多くなっています。
株式譲渡と事業譲渡の比較
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
対象 | 会社の株式 | 事業の一部または全部 |
手続き | 比較的簡単 | 複雑 |
費用 | 比較的安い | 高い |
リスク | 潜在的な負債を引き継ぐ可能性がある | 負債を引き継ぐリスクが少ない |
従業員 | 原則としてそのまま雇用 | 買い手企業が選択して雇用 |
M&Aのメリット・デメリット
M&Aは、企業の成長戦略や事業承継の有効な手段となりえますが、メリットだけでなくデメリットもあります。M&Aを検討する際には、メリットとデメリットの両方を理解した上で、慎重に判断することが重要です。
病院・クリニックにおけるM&Aのメリット・デメリット
メリット | 内容 | デメリット | 内容 |
後継者不在の解消 | 後継者不在問題を解決し、円滑な事業承継を実現できる | M&Aにかかる費用が高額 | 交渉費用やデューデリジェンス費用、アドバイザー費用などが高額で負担が大きい |
事業の継続 | 廃業のリスクを回避し、事業を継続できる | 経営者交代に伴う混乱 | 組織体制や業務フローの変更などによる混乱が起こる可能性がある |
経営基盤の強化 | 資金調達や経営ノウハウの導入により経営基盤を強化できる | 組織文化の違いによる摩擦 | 企業文化や価値観が異なることで、従業員間で摩擦やすれ違いが起こる可能性がある |
医療サービスの向上 | 設備投資や人材交流などによる医療サービスの向上が図れる | 従業員のモチベーション低下 | 従業員の雇用や環境の変化に対する不安が起こり、モチベーションが下がる可能性がある |
地域医療への貢献 | 医療機関の連携強化や地域医療の維持・発展が行える | 患者さんの不安 | 経営者が替わることで病院の評判や信頼性が下がり、患者離れが起こる可能性がある |
中小企業におけるM&Aのメリット・デメリット
メリット | 内容 | デメリット | 内容 |
後継者不在の解消 | 後継者問題を解決し、円滑な事業承継を実現えdきる | M&Aにかかる費用が高額 | 交渉費用やデューデリジェンス費用、アドバイザー費用などが高額で負担が大きい |
事業の継続 | 廃業のリスクを回避し、事業を継続できる | 経営者交代に伴う混乱 | 組織体制や業務フローの変更などによる混乱が起こる可能性がある |
新規事業への進出 | 新規事業への参入や事業領域の拡大が図れる | 組織文化の違いによる摩擦 | 企業文化や価値観が異なることで、従業員間で摩擦やすれ違いが起こる可能性がある |
経営の効率化 | 規模の経済によるコスト削減や業務効率化が図れる | 従業員のモチベーション低下 | 従業員の雇用や環境の変化に対する不安が起こり、モチベーションが下がる可能性がある |
競争力の強化 | 技術力やブランド力の向上による競争力の強化を図れる |
売手企業がたどるM&Aのプロセス
M&Aのプロセスは、売手と買手の双方で多くの段階を経て進んでいきます。ここでは、特に売手企業がどのようなプロセスで進んでいくのかを詳しく見ていきます。
- M&Aの検討・準備
●後継者不在、事業拡大、経営資源の確保など、M&Aを行う目的を明確化します。
●株式譲渡か事業譲渡かなど、M&Aの方法を検討します。
●弁護士、税理士、M&Aアドバイザーなど、専門家チームを編成します。
●必要に応じて、自社の企業価値を算定します。
- 買い手候補の探索
●M&Aアドバイザーのネットワークやデータベースなどを活用し、自社の条件に合った買い手候補を探します。
●買い手候補の業種、規模、経営理念、財務状況などを考慮して、候補を絞り込みます。 - 買い手候補との交渉
●買い手候補と秘密保持契約を締結し、具体的な交渉を開始します。
●売却価格、譲渡条件、従業員の処遇、事業の継続性などについて交渉します。
●交渉が成立したら、基本合意書を締結します。 - デューデリジェンス
●買い手候補によるデューデリジェンスを受け入れます。
●財務状況、法務状況、事業状況など、企業に関する情報を提供します。
●買い手候補からの質問に回答し、懸念点を解消します。 - 最終契約の締結
●デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な契約内容を交渉します。
●売買契約書などの必要書類を作成し、署名・捺印を行います。 - クロージング
●契約に基づき、株式または事業の譲渡を実行します。
●売却代金の支払いを受け、所有権を移転します。 - M&A後の統合 (PMI)
●買手企業との統合プロセスをサポートします。
●従業員の不安解消、組織文化の融合、事業の円滑な移行などを支援します。
売手企業にとって、M&Aは企業の将来を左右する重要な決断です。 それぞれの段階で、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが大切です。
M&Aに関するよくある誤解
M&Aという言葉はよく聞くようになりましたが、詳しいことを知らない人が多いのも事実。そのため、下記のような誤解がよく見られます。
●M&Aは、経営がうまくいっていない企業が行うもの?
いいえ、そんなことはありません。M&Aは、成長戦略や事業承継など、様々な目的で行われます。
●M&Aは、大企業だけが利用できるもの?
いいえ、そんなことはありません。中小企業でもM&Aを利用することができます。
●M&Aは、従業員にとって不利なもの?
いいえ、そんなことはありません。M&Aによって、従業員の雇用が維持されるケースが多くあります。
まとめ
今回は、病院・クリニック、中小企業が知っておくべきM&Aの基礎知識を解説しました。M&Aを検討する際には、メリットとデメリット、株式譲渡と事業譲渡の違い、M&Aのプロセスなどを理解しておくことが重要です。
特に、医療法人のM&Aについては、「持分あり」「持分なし」の違いを踏まえて、適切な方法を選択する必要があります。
M&Aは、複雑で専門的な知識を必要とするプロセスです。経験豊富なセルサイドアドバイザーに相談することで、M&Aをスムーズに進め、成功に導くことができます。
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【企業価値の評価】
●客観的な視点から企業価値を評価し、適正な売却価格を算出します。
●企業価値を高めるためのアドバイスを行い、より有利な条件でM&Aを進めます。
【買い手探し】
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●医療理念や経営方針が一致する相手を見つけ、M&A後のスムーズな統合を支援します。
【交渉・契約】
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●契約内容を丁寧に確認し、リスクを最小限に抑えます。
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